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横浜家庭裁判所小田原支部 平成8年(少)806号 決定

少年 V・K(1979.4.21)

主文

1  少年を浦和保護観察所の保護観察に付する。

2  本件送致事実中、軽犯罪法違反の事実については、少年を保護処分に付さない。

3  押収してある現金4000円(透明プラスチック様の片とテープが貼られた千円札4枚-平成8年押第41号の2)を没取する。

4  押収してある現金2万1350円(五百円硬貨29枚、百円硬貨67枚、五十円硬貨1枚、十円硬貨10枚-平成8年押第41号の1)のうち、1万8000円(五百円硬貨29枚、百円硬貨35枚)を被害者Aに還付する。

理由

第1非行事実

1  平成8年少第799号関係

(1)  認定事実

司法警察員作成の平成8年5月18日付送致書記載の犯罪事実のとおりであるから、これを引用する。

(2)  認定の理由

少年は非行事実を全部否認し、犯行時間にはB宅に一人残って寝ていたので何も知らない、Bの供述は作り話であると弁解する。

しかし、少年の供述内容をみると、犯行当日まではBの供述と概ね一致しているのに、犯行時間の行動についてのみ食い違いを見せており、細工された千円札をB宅で見つけた状況や用途を知った経緯の説明が不自然であるし、捜査段階では押収してある写真集(いたずらトッポのおはなしと書かれ縦に切断されているもの-平成8年押第41号の3)には心当たりがないと供述したのに、審判廷では、右写真集に細工された千円札が挟まれていたと述べるなど、重要部分について変遷している。また、関係証拠によれば、少年は、犯行の数日前からBと行動を共にしていたこと、当時、無職でパチンコ代もBから借りていたこと、犯行現場付近でBと一緒に居た者の年、背格好が少年に類似していること、少年所有のセカンドバックが犯行現場付近で発見されたことが認められ、これらの事情に照らせば、その否認供述はにわかに信用できないというべきである。

これに対し、Bの供述内容は、少年がB宅に遊びに来た事情、少年と共に細工された千円札を使って自動販売機から釣銭を窃取するに至った経緯、その時期、場所、方法、役割分担など、いずれも詳細かつ具体的で一貫しており、捜査官に対する供述調書と審判廷での供述を比較しても不自然不合理な点はなく、関係証拠やこれにより認められる客観的事実とも符合しており、十分に信用できる。なお、関係証拠によるも、Bが殊更に嘘の供述をして、少年を共犯者に陥れることにより、別の共犯者を庇わねばならないような事情も見いだし難い。

以上によれば、Bの供述を含む関係証拠により(1)記載の非行事実を認めることができるのであって、少年の弁解は採用できない。

2  平成8年少第806号関係

(1)  認定事実

司法警察員作成の平成8年5月16日付送致書記載第3の犯罪事実のとおりであるから、これを引用する。

(2)  同送致書記載第1及び第2の各事実を認定しなかった理由

送致事実は、少年は、〈1〉「C、Dと共謀の上、平成8年5月15日午前3時10分ころ、東京都荒川区○○×丁目××番××号○○前駐車場において、正当な理由がないのに、他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるようなドライバー1本ほか13点を乗車していた自家用普通貨物自動車(○○××は××××号)内に隠して携帯した」、〈2〉「同日同所において、正当な理由がないのに、他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるようなスパナ1本ほか3点をズボン左右のポケット内に隠して携帯した」というものである。

しかし、〈1〉については、少年が道具類の携帯につき、C及びDと意を通じていたと認めるに足りる証拠は十分でないし、少年が友人Cの車に同乗したところ、道具類が車内に偶々存在していたとの疑いも払拭できない。また、〈2〉についても、少年が道具類をポケット内に携帯していた事実は認められるが、これらは、友人のD宅前で前日自転車の修理に使ったものであるとの弁解自体、不自然であるとして直ちには排斥できないし、右弁解を覆すに足りる証拠も十分でなく、正当な理由がないとの証明が十分でない。よって、いずれも犯罪の証明があったとはいえない。

第2法令の適用

1  上記事実1につき、刑法60条、235条

2  上記事実2につき、外国人登録法18条の2第4号、13条1項

第3要保護性

少年は、平成2年ベトナム社会主義共和国から難民として上陸後、本邦の定住許可を得たベトナム人であるが、平成7年9月横浜家庭裁判所において、傷害、窃盗保護事件により、保護観察処分を受けた後も安定した就労に至らず、身元引受人となるべき叔母とも対立して、現在は、婚約者T・K方に居候している。その間、同国人との不良交友も窺われるなど、生活態度にさしたる改善は見られず、安易な生活やルーズな金銭感覚も身に付きつつある。しかも、平成8年少第799号関係(窃盗)では、非行事実を否認しており、その反省も希薄であるとの見方もできる。このような事情を考慮すると、少年の再非行を防止するためには、この際、少年を中等少年院に送致して、生活態度全般について訓練し直すことも考えられる。

しかしながら、少年はベトナム人難民であり、日本語も十分でなく、保護者の役割を果たすべき、本邦在住の同国人祖父ないし叔母からも生活の安定、就労の指導など十分な保護を受けることができない状態にあったし、非行事実を否認している点についても、保護観察中の犯行であるから次は少年院送致との強い不安を抱き、不案内な我国において、事件への関与を一切否定することでしか自己防御ができなかったとの見方もできる。そして、今回の観護措置により、少年なりに、従前の生活態度や交友関係の問題性について考え、これらを改めなければ早晩婚約者T・Kとの生活を維持できなくなるとの危機感の下に、就労への意欲も強まっている。また、少年の婚約者T・K及びその家族においても、今後は少年の生活を安定させるよう協力していくことを約している。以上によれば、少年に対しては、今一度、社会内での更生の機会を与え、専門家の指導の下で将来に向けた安定就労や日本社会への適応を図るのが相当である。

よって、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項を適用して、少年を浦和保護観察所の保護観察に付することとし、軽犯罪法違反の事実については、少年法23条2項により少年を保護処分に付さないこととし、没取につき少年法24条の2第1項2号、2項本文を、被害者還付につき刑訴法347条1項、少年法15条2項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 松田亨)

〔参考〕 司法警察員作成の送致書記載の犯罪事実

(平成8年5月18日付け)

1 犯罪事実

被疑少年は、Bと共謀の上、平成8年2月28日午後10時40分ころ、神奈川県秦野市○○×丁目×番××号○○酒店前において、同所前に設置されたビールの自動販売機内から、A(当67歳)所有にかかわる現金18、000円位を窃取したものである。

(平成8年5月16日付け)

被疑者V・Kは、

第1 Cと、Dと共謀の上、平成8年5月15日午前3時10分ころ、東京都荒川区○○×丁目××番××号○○前駐車場において、正当な理由がないのに、他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるようなドライバー1本ほか13点を乗車していた自家用普通貨物自動車(○○××は××××号)内に隠して携帯し、

第2 同日同所において、正当な理由がないのに、他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるようなスパナ1本ほか3点をズボン左右のポケット内に隠して携帯し

第3 同日同所において、外国人登録証明書を携帯していなかったものである。

〔参考〕 本件少年に対する少年補償事件(横浜家小田原支 平8(少ロ)1001号 平8.7.19決定)

主文

本人に対し金1万円を交付する。

理由

1 当裁判所は、平成8年6月27日、本人に対する平成8年少第799号、第806号窃盗、軽犯罪法違反、外国人登録法違反保護事件のうち、窃盗及び外国人登録法違反の事実については保護観察決定をなしたが、軽犯罪法違反の事実については、送致事実が認められないことを理由に不処分決定をした。

2 同事件の記録によれば、本人は上記送致事実と同一の軽犯罪法違反の被疑事実に基づき平成8年5月15日逮捕され、同月16日まで2日間身柄を拘束されたことが認められる。そして、本人には、少年補償法3条各号の事由は認められないから、同法2条1項に基づき、上記身柄拘束日数2日について補償すべきである。

3 補償額については、逮捕当時本人は無職であり、その他、一件記録によって認められる本人の年齢、生活状況等諸般の事情を総合考慮すると、1日5000円の割合によるのが相当である。

4 よって、少年補償法5条1項に従い主文のとおり決定する。(裁判官 松田亨)

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